もし査読者が他の人だったら、いったいどんな査読コメントを書いただろうか? 論文査読に関する短いエッセイ
浅井篤, 許華, 福山美季, 大西基喜, 門岡康弘
Volume 6 Issue 1 Pages 1-16
First Published: September 11, 2023
Abstract
査読は学術雑誌に投稿された論文の価値を評価し質を向上させる大切な過程である。査読ガイドラインや関連倫理原則も発表されている。一方、査読過程は完璧ではなく、不適切な査読コメントや不正行為が指摘されている。我々は生命医療倫理領域論文の査読を受ける過程で、多くの有益な助言を得て論文を改善させることができた。しかし査読コメントを受け取り対応する過程で、いろいろを考えさせられることがあった。今回我々は著者として査読を受けてきた長年の経験に基づき、査読過程に内在すると我々が認識した根本的問題を提示したい。それらは主に、多種多様な偶然に査読者担当者及びそのコメント内容が左右される可能性と、査読者のコメントに対応する際に著者が取る不適切な態度である。我々が提示する問題は、人が他者を評価する状況で避け難く生じることであると考える。そして査読過程の本質的限界に関する認識と、過剰な能力主義に対する老子(Lao Tzu)の批判に関する理解は、著者と査読者の関係性と競争的学術活動に対する研究者の態度を健全化すると結論する。
Key words
査読、偶然、力の不均衡、過剰な能力主義、老子