生命倫理をめぐる現状と展望(2006年)/児玉聡

 2006年1月、韓国でヒト・クローン胚研究に関するデータ捏造と卵子提供者への金銭授与が発覚し、一大ス キャンダルとなった。その余波は日本にも及び、韓国の研究成果を前提に進められていた国内の再生医療研究が見直しを迫られることになった。また、ヒト・ク ローン胚研究解禁に向けて文科省の作業部会が準備を進めていたが、6月の中間報告は、ボランティア女性からの卵子提供を認めない厳しいものとなった。国内 でも研究者をとりまく競争的環境が強まる中、論文データの捏造や研究費の不正流用などが次々に問題になっている。研究者の倫理性を保証するには、科学的不正に関するガイドラインの作成や調査委員会の設置、若手研究者の倫理教育などの制度設計が肝要である。

 3月、富山県射水市民病院で過去7人の患者が人工呼吸器を外されて死亡していたことが明らかになり、末期患者の治療行為のあり方について国民的議論を惹き 起こした。末期患者の治療の中止(消極的安楽死)に関しては、致死薬投与などによる積極的安楽死との区別が重要である(表1)。また、手続き的な問題とし て重要なのは、「医師の独断で治療中止を行った」という疑いが生じないよう、末期かどうかの判断や、患者や家族からの同意の取得に関して、手続の透明性を確保することである。

 4月、渡航移植に関する厚労省研究班の最終報告書が公表され、その実態の一部が明らかになった。臓器を必要とする患者が、ときに倫理性の疑わしい渡航移植 を行ったり、家族の負担が大きい生体臓器移植を行ったりする背景には、臓器移植法施行後まもなく10年を迎えるのに、脳死臓器の提供件数がまだ50件に満たないという事情がある。前年に引き続き、2006年3月にも臓器移植法改正案2案(表2)が国会に提出されたが、実質的な審議は行われず、秋の臨時国会に持ち越されることになった。今後の臓器移植制度のあり方を見据えた早急な議論が必要である。

表1

表2

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