若年者の治療を優先するべきか? ― パンデミック下でのフェア・イニングス論の検討
保田幸子
Volume 6 Issue 1 Pages 29-44
First Published: October 20, 2023
Abstract
本稿では、パンデミック発生時の治療の優先順位の指標として年齢を用いて若年者を優先してよいかどうかを検討する。若年者優先は、フェア・イニングス論から支持できるが、年齢を指標とすることには賛否がある。そこで、本稿は、フェア・イニングス論の有力な背景理論(員数説、生存年数説、人生全体説)を検討し、パンデミック発生時の若年者優先の妥当性を明らかにする。まず、員数説や生存年数説に基づくフェア・イニングス論は、必ずしも若年者優先を正当化するものではないと指摘する。思慮深いライフスパン説は、「人はみな老いる」という仮定に基づき、若年者の利益を優先する。しかし、パンデミック発生時に、すべての人が歳を取ると期待できないのであればフェア・イニングス論は支持できない。本稿は、パンデミックの発生が、その被害の時期とほかの時期とを分離して評価することを要請してしまう可能性があるものの、大半の人が生き残るのであれば、人生全体説に基づくフェア・イニングス論は受け入れられると結論づける。
Key words
医療資源の配分、フェア・イニングス論、思慮深いライフスパン説、「いつの平等か」、パンデミックの倫理