感染症研究と中絶論争 ― 近年のアメリカにおけるヒト胎児組織を⽤いる研究をめぐる動向
由井秀樹, ⼭縣然太朗
Volume 4 Issue 1 Pages 29-45
First Published: August 11, 2021
Abstract
ヒト胎児組織は、感染症研究などの医学研究の重要なツールであるが、アメリカでは中絶論争との関連で論争的なイシューとなっている。本稿の目的は、プロライフ派を支持基盤に持つトランプ政権による中絶胎児組織を用いた医学研究についての方針とそれを受けた国立衛生研究所の対応、及びその反響を紹介することである。トランプ政権は女性の意思に基づく中絶により得られた胎児組織を用いる研究に対して、大幅な制限を課し、プロライフ派はこの方針を支持した。ここにCOVID19の世界的パンデミックが重なり、トランプ政権の方針に反対する人々は、ヒト胎児組織がCOVID19の治療あるいはワクチンの研究に資することを主張した。そして、COVID19のパンデミックの出口が見えないことを受け、開発に際し、トランプ政権による制限の対象外であった中絶胎児由来の細胞株が使用されたワクチンの接種を、消極的にではあれ容認するプロライフ派組織も出現した。ここから示唆されるのは、COVID19のパンデミックのような極限状態にあっては、被験者保護の視点を一層重視する必要があることである。
Key words
ヒト胎児組織を用いる医学研究、中絶論争、COVID19、アメリカ