COVID-19パンデミック下における不妊治療の停止と公衆衛生倫理上の諸問題

山内里奈, 遠藤菜々子, 塚原遊尋
Volume 3 Issue 1 Pages 1-17
First Published: October 8, 2020

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Abstract

2020年3⽉、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡⼤を受け、アメリカ⽣殖医療学会(ASRM)が発表した不妊治療の⼀時停⽌を推奨するガイドラインは、その後幾度も修正を重ねることになった。その背景には、反対する患者・医療提供者による署名運動や、400⼈の専⾨家による不妊治療提供者連合(FPA)の設⽴などの影響があったと考えられる。不妊治療の⾮常事態下での停⽌においては、その医療サービスに関わる時間的制約性や公共サービスとしての不可⽋性、また患者の⾃律の尊重などの観点と、患者・医療提供者のリスクの軽減、資源分配の最適化などの観点を考量する必要があり、専⾨家組織による情報発信に際しては、治療を希望する患者が置かれている状況に⾔及し、患者の情報の受け取り⽅を考慮したコミュニケーションが求められる。⼀⽅、⽇本ではアメリカのようなレベルでの医療の逼迫は⽣じてこなかったが、今後同様の事態が⽣じた場合には、状況に応じた柔軟な⽅針転換や患者に寄り添う情報発信が重要となるだろう。

 

Key words

COVID-19、不妊治療、ASRM、公衆衛⽣倫理