概要

Center for Bioethics and Law (CBEL) とは、東京大学生命倫理連携研究機構の理念です。研究倫理・臨床倫理・公共政策の各方面における学際的な臨床知の涵養、それらを有機的に結びつけた教育実践の展開、さらには世界をリードする各国の教育研究拠点との国際ネットワーク(GABEX)の構築・展開を通じて、生命・医療倫理の教育研究実践の世界的な拠点の一つとなることを目指しています。

CBELとは

Center for Bioethics and Law (CBEL) とは、東京大学生命倫理連携研究機構の理念です。生命倫理連携研究機構が、生命倫理研究および教育を通じ多くの人が集い、情報の交差点として生命倫理に関する知恵に還元するような、社会における生命倫理の中心になりたいという願いを込めています。

沿革

  • 2003年 文部科学省科学技術振興調整費(2003年度~2007年度)により生命・医療人材養成ユニットを設立
  • 2008年 平成20年度文部科学省グローバルCOEプログラムおよび東京大学大学院医学系研究科の支援を受け、東京大学生命・医療倫理教育研究センター(Center for Biomedical Ethics and Law: CBEL)に改組。
  • 2019年 東京大学生命倫理連携研究機構(Bioethics Collaborative Research Organization)に改組

CBELの理念

  • ライフサイエンス・医療技術が社会にもたらす様々な倫理的・法的・社会的諸問題(ELSI: Ethical, Legal and Social Issues)に関して学際的に研究を推進します
  • 国内外の生命・医療倫理の研究拠点と連携し、質の高い国際ネットワークを形成します
  • 政策、研究、臨床の実践の場に適した教育プログラムを提供します
  • 今後リーダーシップを発揮して国際的にも活躍できる高度な人材を養成し、次世代の国際標準となる生命・医療倫理の教育・研究拠点を創成します

CBELのタスク

  1. 次世代をリードする若手研究者の育成

世界水準の中で研究と教育を行うことのできる、次世代を担う高度な生命・医療倫理学研究者を養成します。本拠点でめざすのは、自主的かつ創造的に問題解決に向けて取り組むことの出来る人材の育成です。そのためのひとつの手段として、国内外の大学院生、ポスドク、若手研究者らに対して、教育・研究の両面において海外の優れた研究者らとの交流・共同のチャンスを、国際教育フェローシップという形で広く提供していきます。

  1. 生命・医療倫理の問題に対応しうる医療専門職の育成

臨床現場で日々直面する倫理的問題の本質をとらえ、適切な解決へと導くことができる医療専門職を育成します。本拠点が目指すのは、生命・医療倫理の 理論をふまえつつ、個別の状況に応じて柔軟な問題解決を図ることができる人材の育成です。

  1. 医学の実践で活きる研究倫理プロフェッショナルの育成

研究倫理アドバイザー育成:倫理 審査委員会や治験審査委員会に申請される、さまざまな研究計画書の倫理的妥当性を適切に評価し、また、研究者らに対して研究倫理教育・指導・助言を行うことのできるプロフェッショナルの育成を行います。

  1. 医療の実践で活きる臨床倫理プロフェッショナルの育成

臨床倫理コンサルタント育成:診療・治療方針等をめぐって、患者、家族、医療従事者らがそれぞれに困惑し、時に衝突し、また判断を迷うような倫理的問題に直面した場合に、それぞれの価値観を汲み取りながら調整し、最終的には、患者本人にとって最善の利益となる解決策を助言できるプロフェッショナルの育成を行います。

  1. ライフサイエンスや医療の公的規制のための政策シンクタンク活動

ライフサイエンスや医療の分野では、倫理問題に関するさまざまな検討課題が日々浮上しています。こうした生命・医療倫理に関する実際の出来事や事件について、政策課題として国際的、歴史的視点から検討します。また、社会における情報や問題意識の共有が必要と判断した問題については、政策レスポンスを通じた情報提供や政策提言を行います。

  1. 開かれた議論のためのオンライン政策情報アーカイブの構築

生命・医療倫理を取り巻く状況は日々動いており、我々は過去および他国の教訓に学びながら、現在および未来のルールのあり方を考えなければなりません。このオンライン型の政策情報アーカイブによって、国内外の動向に関する知識を体系的に把握することに加え、今日の日本の状況を相対化し、情報の偏在や認識の違いを克服するための情報基盤を構築します。

  1. 国内最大規模のリファレンスセンターの開設

生命・医療倫理分野の関連書籍・文献を収集した国内最大規模の情報センターを整備します。これまで日本では、生命・医療倫理分野の専門文献に関する体系的な収集は実施されてきませんでした。網羅的な文献収集と的確な分類・整理を行い、国内での研究教育の底上げをはかります。

  1. 市民の医療・生命倫理リテラシー向上のための情報発信

生命・医療倫理の最新の動向についての情報の発信を行うともに、市民と専門家の対話を促進する活動を行い、社会全体で生命・医療倫理問題に取り組む 土壌を創造します。情報発信や市民を対象とするワークショップの企画・運営等を通じて、生命・医療倫理の諸問題に対する市民のリテラシー向上を図ります。

リーダーからのメッセージ

「医療は患者の思いを受け止めていない」。臨床医としての疑問が出発点でした。末期がん患者に施される延命治療、過剰とも言える抗がん剤投与――大学卒業後内科医を務めた間に、当時の医療の“常識”に悩みました。一方患者家族の立場に回ると別の考え方がありました。私の母親をがんで亡くした時には、「だめだとわかっていても蘇生を試みてほしかった」のが本音です。

医療従事者と患者、家族の思いをいかに調整すればよいのか。疑問を胸に、世界初の生命倫理研究所として発足した米国ヘイスティングス・センターでしばらく学びました。そこでの議論はまさに私が求めていたものだったのです。不治の患者を安楽死させていいのかについて、「患者を苦しみから解放してあげるべきだ」という医師、「最後まで手を尽くすべきだ、本人の意思が最優先だ」と反論する倫理学者。専門や意見が異なるものが、同じトピックについて、一つのテーブルを囲んで、互いに理解できるような言葉で議論しあうのです。これが学際性ということの本質なのでしょう。

帰国後、京都大学で倫理委員会委員長を務め、脳死や生体臓器移植のドナーやレシピエントの方の最終的なインフォームド・コンセントの意思確認などを行ない、日本での医療倫理学を確立する一歩を踏み始めました。しかし、ヒトES細胞研究やクローン技術、代理母や出生前診断、延命治療と尊厳死の境目など、生命・医療倫理の問題は山積しているにもかかわらず、この分野を積極的に学び、関わっていこうという人材が圧倒的に不足していて、現在でもその状況は変わることなく深刻になっています。

そこで、本グローバルCOEは、若手研究者、医療従事者から市民まで、幅広い人材養成と研究を試みます。生命・医療倫理学は単なる座学ではなく、医療と社会をつなげるダイナミックな学問です。生命・医療倫理の問題は、現在に生きる全ての人に密接に関わる問題なのです。

私の目標は、「現代医療・科学技術が抱える倫理的問題を整理し、よりよい処方箋を提供すること」です。「医療倫理を考える」ということは、「よりよい医療とは何かを考える」、「よりよい患者・医療従事者関係とは何かを考える」ことにほかなりません。一人でも多くの方に、生命・医療倫理に関心を持っていただき、ともに考えていける場を提供していきたいと思います。

 

東京大学生命倫理連携研究機構
機構長 赤林朗