視線触発は発達の過程において第一次的か

森有哉
Volume 5 Issue 1 Pages 82-93
First Published: September 30, 2022

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Abstract

本論文の目的は自閉症に関する研究所や当事者の手記などの分析を通じて、自閉症を持つ人の経験構造のあり方を明らかにすることである。自閉症者の経験構造を明らかにすることは、自閉症者の療育に生かされるだけでなく、定型発達者においては日常的すぎて見過ごされてしまう経験を支える構造も明らかにすることができる。本論文では、まず初めに自閉症の一般的な定義や歴史を確認した。その上で村上靖彦『自閉症の現象学』における議論を概観し、自閉症を説明する上で重要な三つの概念、視線触発、図式化、現実の次元化について紹介した。さらに、綾屋紗月が『発達障害当事者研究−ゆっくりていねいにつながりたい』において記述した現象をもとに図式化概念を再考した。また発達の過程において視線触発が第一次的か否かに関して、村上靖彦、内海健と熊谷晋一郎、國分功一郎の異なる立場を取り上げた上で、村上・内海の視線触発の欠如が第一次的であるとする考え方がより説得力を持つとした。最後に、熊谷・國分の主張から導かれる重要な点として、コミュニケーションの困難の所在には二つのヴァリエーションがあるということを指摘した。

 

Key words

自閉症, 発達障害, 視線触発, 図式化