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日本の最先端を走るUT-CBEL・研究倫理部門とは?
高校生のためのやさしい医療倫理 〜東京学芸大学附属高校・出前授業レポート〜
第二回・留学生日記 博士課程3年 伊吹友秀さん
 

┏● 日本の最先端を走るUT-CBEL・研究倫理部門とは?
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
UT-CBELの活動のひとつに研究倫理部門があります。
医学研究に関する倫理的問題の研究・教育・実務を行っている部門ですが、
一般の方にとってはいまひとつ馴染みのない分野ではないでしょうか。
そこで、研究倫理とは具体的にどんな分野なのか、
担当の松井健志先生、田代志門先生に話を伺いました。
 

―研究倫理について教えて下さい。
松井:今、皆さんが普段飲んでいる薬、当たり前に受けている治療法や診断法は、
医学研究の積み重ねでできているものです。人のために役立つ薬や治療法などを
開発するには、最終的には実際に生きている人を対象として、本当に効くのか、
どのような副作用がどの程度生じるのか、 何が原因となって病気が起こっているのか、
といったことを検証する必要があります。

その一方で、研究で使われる人は守られなければいけません。
その際、どういう方法なら社会的に許されるのか、
どういった範囲なら研究で使われる人に過度のリスクを負わすことにならないか、
また逆に、どの範囲以上の行為なら倫理的に問題であるのか、
といったことを考えるのが研究倫理です。

田代:最近では「根拠に基づく医療」(Evidenced-based medicine: EBM)の必要性が
広く認識されるようになりました。
実験室での基礎研究や動物実験などで有用と思われた医薬品が、
そのまま人間にとっても有用であるということはできませんし、
成人男性にとって標準的な治療法が、
女性や妊婦や子供にも同様に安全であるとは限りません。
先ほど松井先生も言われたように、本当にこうした人たちに有用かどうか、
安全に使えるかどうかを検証する必要があります。

一般的には「人体実験」というと聞こえが悪いかもしれませんが、
安全で有効な医療の発展を私たちの社会が求める限り、
人を対象とする研究が必要ですし、その際には誰かが被験者に
ならなくてはなりません。
被験者を守りながら、同時に臨床研究を推進していくためにも、
倫理的社会的観点からのチェック体制を確立することはとても重要です。
研究倫理の役割は、そのための考え方の枠組みを作っていくことにあると考えています。
 

―では研究倫理といっても、実験室で行われるような研究の倫理ではないのですね。
松井:そうですね。ここで私たちが研究倫理の対象として扱う研究は
動物実験や基礎研究ではなく、主に医学研究において人を使う研究、
もしくは人の身体の一部を採取してそれを使うというような研究で、
看護研究なども含まれます。

また最近では、医療工学や脳科学分野で人を使った研究がありますが、
そうしたものも対象になります。
もちろん、動物実験の倫理性や科学一般に携わる研究者の不正行為や
データ捏造といった科学者倫理の問題も、
広い意味での研究倫理のテーマには含まれますが、
私たちがここで取り組んでいるのは、
あくまでも人を対象とする研究に関する倫理の問題です。
 

―今までにどういう研究が倫理的に問題だと言われてきたのでしょうか。
松井:一般的に言えば、被験者の同意がない、もしくは同意が不十分な実験、
また、被験者へのリスクが極端に高い実験などがしばしば問題にされてきました。

皆さんも名前はご存知であろうにハンセン病にまつわる実験を例にとりますと、
その原因菌を見つけたノルウェーの学者・ハンセン(Armauer Hansen)は、
ハンセン病は「人から人へうつる」という仮説を立て、それを証明するために
人を使って実験をしました。当時、ハンセン病は非常に蔓延していて、
患者が差別を受けていて治療法もありませんでした。
また、本当に人から人の感染で起こるのかも分からなかったのです。

そうした中で、ハンセン病が感染症だと疑っていたハンセンは、
ハンセン病の症状を呈していた患者の体液を採取して、それを別の入院中の患者に接種し、
その患者が本当にハンセン病を発症するかどうか実験をしたのです。

この実験では倫理的な問題が2つありました。
ひとつは、患者が嫌がったにもかかわらず接種した、
つまり、被験者の同意なく実験が行われた点。
そしてもうひとつの重要な点は、この実験が被験者に許容できない
過度のリスクを負わすものであったということです。
仮に被験者の同意がその時得られていたとしても、被験者が負わされるリスクの面を考えると、
その一点でこの実験は倫理的に正しくない、すなわち許容されない、ということになります。
 

― 研究倫理の問題はいつ頃から社会的に認識されるようになったのでしょうか。
松井:ハンセンの例に見るように、問題そのものはすでに19世紀からありました。
ハンセンはあの実験が問題視されて臨床医の免許を剥奪されています。
しかし、こうした問題が広く医学研究者の間で認識され始めたのは、
1960年代以降で、ここ40、50年くらいといえます。

ただ、1960年代から欧米での認識は進みましたが、
日本は少し遅れていて、ここ20年のことといえるでしょう。
 

― 今はどのような形で被験者を保護しているのですか。
田代:医学研究をおこなう施設には倫理委員会や治験審査委員会がおかれていて、
そこで研究を行う前に科学性を含めた倫理性を審査しています。
ただ、倫理委員会の多くは同意書の文言を訂正したり、
単に倫理指針の形式的に沿っているかどうかを
チェックしたりすることに終始していることが多く、
本来すべき「被験者の保護」という観点からの審査
という視点が欠落していることが少なくありません。
 

― UT-CBELの研究倫理部門の特徴は何ですか。
田代:そもそも、日本では研究倫理に専門的に取り組んでいる研究者が少ないので、
そういった意味では、UT-CBELは数少ない研究拠点の一つだといえます。
また、海外とのネットワークにも力を入れています。例えば、GABEXの連携先でもある
米国国立衛生研究所(NIH)の生命倫理学部門とは共同で研究や教育に取り組んでいます。
教育活動は、国内に加えて、韓国やフィリピン、ベトナム、シンガポールなど
アジア地域でも行っています。
 

― どういった共同研究をしているのですか。
松井:例えば、2005年から2008年にかけては、
アメリカ、中国、インド、エジプト、韓国の研究者とともに、
人体の一部(ヒト由来試料)を使った研究の倫理性についての国際的な意識調査を行い、
ヒト由来試料を使った研究における同意の問題や、ヒト由来試料の所有をめぐる問題、
規制のあり方などについて検討を行いました。

同意の問題に関してひとつ興味深かったのは、一般の人よりも専門家のほうが、
一種、過剰反応とも言えるようなより厳しいルールを求める傾向にあることが分かったことです。
これは予想に反していました。この他にも、あるひとつの実際の医学研究の中で、
2種類の同意書を用いて被験者の理解に対する効果をみる無作為比較対照研究を
NIHと共同で行っていますし、また、理論研究なども共同で進めています。
 

― 研究倫理教育とは実際にどんなことをしているのですか。
田代:2009年4月に新しい臨床研究に関する倫理指針が施行されたのですが、
その中で研究者は研究倫理に関する教育を受けなければならないという規定が盛り込まれました。
しかし、具体的な内容や誰が教えるのかということについては何も議論されないまま
規定だけが盛り込まれています。

東大では、学内の研究者を対象とした東大研究倫理セミナーを実施したり、
医療倫理学分野を中心として夏期集中セミナーの中で研究倫理教育をしてきた実績があります。
また、松井先生と私は、毎年6月頃に長崎大学熱帯医学研究所で開催されている
研究倫理の集中コースの運営にも携わってきました。

そうした実績と経験をもとにUT-CBELでは、
様々なタイプの教育セミナーを提供していきたいと考えています。
すでに今年度には、東京女子医科大学や滋賀医科大学などで
研究者を対象とした短期セミナーを開催しましたし、他にも数箇所で予定しています。

また、12月にはパイロット版ですが、2日間のコースを東大で開催する予定です。
そこでは研究倫理の基本的な考え方と重要なトピックについて講義と演習を行います。


― 今後の活動について教えて下さい。
松井:研究と教育はこれまで以上に力を入れて続けていきますが、それとは別に
研究倫理の問題にかかわっている全国の人々や組織の支援をしていく活動をしていきたいと思っています。
具体的には研究の計画段階から倫理的側面についての助言を行う
研究倫理コンサルテーション活動を行うとともに、質の高い審査を行うことのできる、
中立性を保った独立型の倫理委員会を設立したいと考えています。


 

(聞き手 広報:平間 千恵)

 

ハンセン病:細菌の一種であるらい菌Mycobacterium lepraeによる慢性の感染症で、おもに皮膚と顔や手足などの末梢神経に病変が生じる。

 

                                                                     

┏●高校生のためのやさしい医療倫理
〜東京学芸大学附属高校・出前授業レポート〜

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去る10月9日(金)東京・世田谷の東京学芸大学附属高校で
脳死と臓器移植に関する倫理的問題についての授業を行いました。

脳死と植物状態の違いや今年4月に改正された法案内容、
臓器を提供された患者の事例について説明し、
その後グループを作りディスカッションを行いました。

普段、医療倫理について考える機会は少ないという1年G組の生徒46名が、
「もし自分が脳死になったら臓器を提供するか」「家族が脳死になったら
自分は臓器の提供を承諾するか」等について真剣に話し合いました。

15歳、16歳の高校生にとって脳死と臓器提供の倫理的問題とは、
どのように捉えられたのでしょうか。


授業を受けての感想

  • 家族の脳死の場合の臓器提供を承諾するかどうかよく考えさせられた。
     
  • 家族1人が死ぬか、誰かが助かるか、と考えたら、家族はもう脳死で回復することはないと分かっているなら提供を承諾すると思う。しかし、家族の死はなかなか簡単に受け入れられないと思うので早急に判断を求められたらどうするか分からない。
     
  • 今までは漠然と脳死しているなら困っている人に移植してあげれば良いと思っていたが今回じっくり考えてみて、どこかためらいを感じたことに驚いた。
  • 実例がたくさん出てきて、説得力があり学校の授業より面白かったです。
     
  • 脳死の判定が出たら、即臓器を提供すれば良いと今までは思っていたが、家族の気持ちなどを考えると、一概には言えないと思った。医療の倫理というのはとても難しいものだと実感した。それでも僕の場合なら、提供を待っている人のことを考えると脳死したら提供したいと思った。
  • 身内に臓器を待っている人がいたらその人に提供することを選べるということに驚いた。大切な人のために自殺する人が出るのではないかと思った。
  • グループディスカッションを通じて臓器移植に関する考え方は、人それぞれ違うんだなぁと思った。私は、自分だったら目以外なら誰にあげても良いと思った。移植の時、できれば相手を選びたい。生前から仲が悪かった人には絶対あげたくない。家族から家族への臓器移植なら良いと思う。
  • 私は移植の是非については迷いがあり、立場が決められないのですが、考えるきっかけになりました。身の回りに起こりうることなので、これから考えていきたいと思います。提供することがどうして「嫌」なのかという理由が答えられない問題で難しかったです。
  • 医療にも単に技術だけでなく、道徳心や倫理感が必要とされることが印象に残った。
  • 本当に複雑で難しいことだと思いました。臓器をめぐるごたごたがなくなるよう、人工臓器を作って欲しい。もしくは脳死から復活させる特効薬、臓器提供が必要な人の悪い臓器を治す薬があれば良いのにと思った。

 

                                                                     

┏●第二回・留学生日記 博士課程3年 伊吹友秀さん
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日本を離れて約一カ月、
ようやくオーストラリアの生活にも慣れてきた伊吹さん。

北風が吹き荒れるメルボルンでどんな留学生活を送っていたのでしょうか。




冬のメルボルンは風が強い。 私の生まれ育った街・埼玉県狭山市も冬になると
山々の方から冷たい北風が吹くので、古い農家には大概防風林が植えられていました。
ただ、私の故郷と違って、(南半球なので当たり前ですが)メルボルンの冷たい風は南から吹いてきます。
そしてこれも当り前ですが、春は北からやってきます。
春らしい暖かな北風なんて、生まれて初めての経験です。
さらに言えば、今年、日本は冷夏だったと聞きましたが、それでも、夏のない一年も初めてでした。
元高校球児としては夏といえば炎天下での高校野球なのですが、
今年はその時期を、温かな北風が吹き始めるもまだまだ肌寒いメルボルンで過ごしていました。
そこで、今回は、夏の甲子園の決勝の翌日・8月25日に私が過ごした一日を紹介したいと思います。

この頃の私は、大体朝の7時ころに起きて、
チャンネル7のニュースかABCの子供番組を見ながら朝食を食べ、
10分くらいかけて徒歩で大学まで通っていました。
このABCで放送されていたクマの人形が
歌って踊る子供番組は英語の勉強のスタートとして取っ付きやすく、
しかも、子供番組にもかかわらずDisabilityとかCommunityといった子供に説明しづらい言葉を
一生懸命分かりやすく伝えようとしており、意外にも見入ってしまっていました。

大学までの道の途中にはミルクバーと呼ばれる小型の商店や
コンビニ(何故かメルボルンのほぼすべてのコンビニがセブンイレブンでした)があるので、
そこでジ・エイジジ・オーストラリアンという新聞を買うのが日課でした。
この日はフッティー特集に惹かれてジ・エイジを購入。

大学に着くと前回書いたメンジーの10階にある研究室で、
午前中は自分の研究に関係する論文や書籍を読んでいました。
昼食はサンドイッチなどのお弁当を持っていくことも多かったのですが、
この日はメンジーの反対側にある学生棟の中華バイキングに行くことにしました。
ちなみに、オーストラリアの昼ご飯の時間は13時くらいのことが多いようなので、
私も郷に入っては、、、で13時から昼食に出かけました。

この学生棟には、ハンバーガー中心のカフェ×3、きちんとしたカフェ×2、
寿司とアジア料理のテイクアウト、アジア料理のテイクアウト、フィッシュアンドチップス、
変わったものですとピーター・シンガー先生ご用達のベジタリアンのレストランもあります。

どこもお昼にかかる費用は
8オーストラリアドル〜20オーストラリアドル(1オーストラリアドル≒80円)程度で、
600円前後から1500円前後なので日本の大学の学食よりは割高な気がします。



さて、この日は夕方からはオークリー先生の「倫理と法律」の講義でした。
この授業は、安楽死やクローンなどの問題を、特に法律と倫理の違いに注意しながら議論する
という授業なのですが、この問題はなかなか難しいものです。
「倫理・道徳的に悪いこと・善くないこと」と、「法律で禁止すべきこと」は違うのかもしれない
ということが前提となっています。
具体的な例で言うと、シルバーシートでお年寄りや体の不自由な方に席を譲らないのは、
倫理的・道徳的に善い行動ではないかもしれません。だからといって、「シルバーシートでは
必ず席を譲らなくてはいけないという法律を私たちは持つべきだ」とは必ずしも言えません。

生命・医療倫理の問題でも、たとえ積極的な安楽死やクローン人間の作製が
倫理的に悪いという判断が下されたとしても、その判断と「だから法律によって禁止すべきだ」
という判断はいったん切り離して論じられる必要があるのです(もちろん、無関係ではありません)。

ちなみに、この日は、人工授精で作られた胚の性別や遺伝病の有無などを調べた上で子宮に戻す、
いわゆる「出生前診断」を政府は規制すべきなのかが議論のテーマでした。
このテーマについて、事前に渡された参考文献とオークリー先生のレジュメを元に、
学生やオークリー先生と熱い議論を交わしました。
英語での議論はなかなか骨が折れますが、できるだけ積極的に発言するよう心がけていました。

この授業が終わると夜8時。この日は少し食材が切れていたので
クライトン駅の周辺のコールズという大手スーパーと中国系スーパーで買い物です。
ビールも忘れずに買いました。




オーストラリアでは、エールビールのおいしいものが多いので、
少しだけ奮発してエールビールを大量に買いました。
この日の夕食では、このビールを1キロ6オーストラリアドルで買ってきたラムチョップと合わせました。

充実した研究や勉強の後においしいビールを飲むと、ずっとこんな日が続けばいいのに
と思ってしまうほど幸せですが、そんなずっと続いてほしいほどの充実した日々を
送らせていただいていることに感謝して、明日も頑張ろうと誓ったのでした。

 

東京大学大学院医学系研究科 
健康科学・看護学専攻 医療倫理学分野
伊吹友秀

 

チャンネル7:オーストラリアのテレビ局。メルボルンの支社は今メルボルンで注目のスポットである(らしい)ドックランド呼ばばれる地域にある。
ABC:オーストラリア国営のテレビ局
ジ・エイジ:オーストラリアの新聞。メルボルンではタブロイド紙ヘラルドサンに次ぐ発行部数だとか。
ジ・オーストラリアン:オーストラリアの新聞。日曜日は休刊。一度知らずに日曜日に買ったら土曜日のもので、売れ残りを売りつけられたと勘違いしてしまいました
フッティー:オーストラリアでは最も人気のあるスポーツ・オーストラリア式のフットボールの略称。オージールールズとも呼ばれる。日本ではオージーボールとも呼ばれている。ちなみに、オークリー先生はジロン・キャッツというチームの大ファンです。

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