生命倫理の現在と展望(2011)/児玉聡

●臓器移植——2010年7月の改正臓器移植法施行から1年が経過した。同年8月に改正後初の家族承諾による脳死臓器移植が行なわれた後、11年7月末までに57件と、過去最多となった。11年4月には初の15歳未満の脳死患者からの臓器提供も行なわれた。だが、適切な情報開示がなされていない、ドナー家族へのケアが足りない、依然としてドナー数が足りないなど、問題点も指摘されている。さらに、11年6月には暴力団のからんだ臓器売買が発覚し、大きな社会問題となった。国民の信頼と協力を失うなら、移植医療は停滞してしまう。適切な見直しが必要だ。

●生殖医療——10年 12月、78年に世界初の体外受精を成功させた英国のエドワーズ博士にノーベル医学・生理学賞が授与された。今日、体外受精により日本では年間2万人の子どもが生まれているという。だが、10年8月に野田聖子議員が渡米して第三者から卵子提供を受け妊娠したことを報告したのをはじめ、学会によって国内では禁止されている卵子提供などを受けるために渡航する人が後を断たない。生まれてくる子どもの福祉を考えるならば、国内および国際的なルールを作ることが火急の課題だ。

●幹細胞研究——10年10月、米国でヒトES細胞を用いた初めての臨床試験が開始された。同年11月には、iPS細胞を含む幹細胞を用いた臨床研究指針が国内で施行され、幹細胞研究は国を挙げて推進されている。研究が進展すれば、将来的には臓器移植や生殖医療の多くの問題が解決されるだろう。だが、国内外で安全性や有効性が確かめられていない「幹細胞治療」が行なわれたり、ヒト幹細胞を用いた卵子・精子の作製の研究に対する市民の不安の声があがったりと、検討課題も多い。患者保護を徹底する制度を作るとともに、市民と科学者の対話活動が必要とされている。

(『現代用語の基礎知識』(2012年版)所収)

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