生命倫理の現在と展望(2010)/児玉聡

●臓器移植——10年7月、改正臓器移植法が全面施行された。改正法では15歳未満の小児がドナーになることが可能となった他、本人の拒否がなければ家族の承諾のみで脳死判定や臓器移植を行うことが可能となり、親族への優先提供も限定的に認められた。「移植禁止法」と揶揄された旧法と比べると大幅な「規制緩和」が行われたと言える。改正をきっかけに移植数が増加することが期待されているが、小児の臓器移植に関わる医療機関の準備は始まったばかりであり、改正法に対する国民の理解も十分とは言い難い。適切な移植医療のためには、医療機関が積極的に移植医療を行える環境の整備と、国民の信頼と協力が不可欠である。両者とも今後の大きな課題であろう。

●幹細胞研究——10年4月、幹細胞研究を基礎研究から臨床応用まで総合的に行うiPS細胞研究所(CiRA)が京都大学に設立された。同年5月には、文科省がヒトES・iPS細胞からの生殖細胞作成を容認する指針改正を行い、6月には厚労省がiPS細胞を含む体性幹細胞の臨床研究に関する指針改正案を公表した。幹細胞研究には再生医療(移植用の組織や臓器の作成や神経難病の治療など)の期待がかかる一方で、被験者保護の問題や、生殖医療目的での使用の是非など、慎重な議論が必要とされる論点もある。ここでも、どこまでの「規制緩和」が科学的・倫理的に適切なのかが問われていると言えよう。

●合成細胞——10年5月、人工的に合成されたDNAを用いて細菌を作ることに成功したことが報道され、「人工生命」の開発として世界的に大きな話題となった。食糧・環境問題の解決に役立つ物質の産生が期待される一方、犯罪への悪用、人為的な生命の創造についての慎重論もある。米国では大統領生命倫理委員会がこの研究の持つ意味について、同年7月からすでに検討を始めている。人類と科学の将来を見据えた先手の対応が必要とされている。

(『現代用語の基礎知識』(2011年版)所収)

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