生命倫理 この分野を読む/児玉聡

●臓器移植 ―― 09年7月、国会で臓器移植法改正がなされた。背景には、渡航移植の自粛を求める国際世論の高まりがあった。09年6月、脳死を人の死とするとともに、国内での小児移植を可能にする法案が、衆議院で過半数の支持をもって可決された。続く参議院でも、衆議院で可決された法案が過半数で通過した。十分な社会的コンセンサスがないままに国会審議が進んだという批判もあった。同様の批判は、生殖補助医療や終末期医療に関する立法の際にも生じる可能性がある。生や死に関する国民の多様な価値観を背景に、どうすれば国民の合意形成ができるのか。立法府における生命倫理政策の手法の確立が問われている。

●新型インフルエンザ ―― 09年5月、新型インフルエンザの国内発生が確認された。日本政府は同年2月に行動計画を改訂し、深刻な被害が生じることを前提に対策を進めていた。だが、メキシコから始まった今回の新型インフルエンザは、予想ほどには毒性が強くなかったため、厳格な水際対策や発熱外来の設置など、行動計画に基づいた政府の対応は柔軟さに欠けているとの指摘もなされた。秋以降には第二波が予想されている。効果的な感染症対策を行うには、人権に配慮しつつも、市民の自由を制限する必要がある。バランスの取れた公衆衛生政策が求められている。

●生殖補助医療 ―― 09年2月、香川県の病院で受精卵取り違えの事件が報道された。これは、不妊治療中の女性に医師が誤って別のカップルの受精卵を着床・妊娠させた疑いがあるというものである。今後同様のケースが生じて出産後に取り違えが明るみに出た場合、生まれた子どもの親子関係が大きな問題になりうる(今回は妊娠途中で取り違えの可能性がわかったために、出産には至らなかった)。医療現場における安全管理の徹底が必要であると同時に、生殖補助医療における親子関係の決め方を議論しておく必要があるだろう。

(『現代用語の基礎知識』(2010年版)868ページ)

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