生命倫理をめぐる現状と展望(2008年)/児玉聡

●再生医療
成人の皮膚細胞などの体細胞からES細胞と同様な分化機能を持つiPS(人工多能性幹)細胞を作る技術が、京都大学の山中伸弥教授らによって開発された。ES細胞を用いた研究では、受精卵を破壊することの倫理性などの問題が研究の進展を遅らせていた。iPS細胞によって倫理的問題の少ない再生医療の実現が期待されるが、iPS細胞を用いた生殖医療研究の是非や、再生医療が社会にもたらす中長期的な影響など、倫理的問題の検討を引き続き行う必要がある。

●終末期医療
2006年3月の富山県射水市民病院事件が契機となり、終末期医療のあり方をめぐる議論が活発化している。07年には、厚生労働省や日本救急医学会などによって、終末期の治療中止に関するガイドラインが次々と公表された。このような進展がある一方で、本年4月から始まった終末期相談支援料が開始後3か月で凍結され、7月末には射水市民病院事件の医師らが殺人容疑で書類送検されるなど、終末期医療に関しては依然として先行きの見えない状況が続いている。患者と家族の意思が最大限に尊重され、医療者が法的訴追の心配なく医療を行える環境整備が求められている。

●生殖補助医療
07年3月に最高裁判所は、向井亜紀夫妻と代理出産による双子の間には、実の親子関係は民法上認められないとの判決を出した。着床前診断や代理出産は日本産婦人科学会が会告で自主規制しているが、会告破りが次々に明るみに出ている。裁判所も同学会も、司法判断や自主規制の限界を認め、立法の必要性を訴えている。07年3月の厚労省の国民意識調査では、「代理出産を社会的に認めてよい」とした人が半数を超えたが、その一方で、日本学術会議は本年3月、子の福祉などの理由から、法律で代理出産を原則禁止すべきだとする提言をまとめた。代理出産だけでなく、生殖補助医療一般に関する社会の合意形成が早急に求められている。

Comments are closed, but trackbacks and pingbacks are open.