あらたな挑戦に向けて/奈良雅俊

 「平成のプロジェクトX」。私たちはCBEL(生命・医療倫理人材養成ユニット)の挑戦をこう呼んだ。わが国の医療倫理学研究の基盤を築くという使命感、そして医療現場の倫理的問題や倫理委員会の運営で困っている人々を支援したいという切なる願いが、はからずもこのような呼び名を選ばせたのである。さて平成15年に立ち上げた私たちの「プロジェクトX」はいま折り返し地点に来ている。そこでいくつかのご報告と今後の抱負を述べたい。

 まずメンバーの交代があった。特任講師の前田正一が東京大学大学院医学系研究科医療安全管理学講座に、特任研究員の瀧本禎之が同研究科ストレス防御・心身医学に移籍した。これにともない前田の後任を奈良が務め、林芳紀(倫理学・政治哲学・スポーツ倫理学)を特任研究員としてあらたに迎えた。また医療倫理学/健康増進科学講座の松井健志(医学研究倫理学、医療倫理学)が助手(兼任)として加わった。前田、瀧本はCBELを「卒業」してもその教育・研究活動に協力してくれる。かくしてこれまでと変わらぬチームワークにより私たちはゴールをめざして突き進みたいと考えている。

 これまでの道のりは決して平坦ではなかったものの、さまざまな人々の援助に支えられて私たちは堅調な歩みを続けることができた。教育面においては、生命・医療倫理学入門コースおよびリスクマネジメント人材養成講座を開講し、前者については200名弱、後者についても100名以上の修了生を社会に送り出した。また、次世代を担う生命・医療倫理学の研究者の育成にも力を注ぎ、数名の学位取得者を輩出した。次に研究活動としては、生命・医療倫理学の体系的かつ標準的なテキストとして『入門・医療倫理I』を出版した。また全国の医療機関、研究機関での倫理教育に役立ててもらいたいという思いから『生命・医療倫理学入門(DVDビデオ全16巻)』を出版した。

 私たちは単なる座学ではない生命・医療倫理学の基礎作りをしてきた。こうした作業はどちらかと言えば地味なものであるが、さいわいにも教育と研究の両面における実績は文部科学省からも高い評価をいただいた。このことは私たちにとって大きな喜びであり励みとなった。また、CBELによる日本の医療・医学研究への影響も少しずつ見え始めている。入門コースの修了生は倫理委員会等で活躍するだけでなく、ここで培われたネットワークを生かして情報交換や勉強会を行っている。彼らを通して“CBEL”という名称も医療現場に浸透しつつあるようだ。

 折り返し点は第二のスタート地点でもある。CBELが実践的な医療倫理学の研究・教育拠点となることを目標にして、私たちは気持ちも新たに再び走り出している。教育面では、2006年度第1回の生命・医療倫理学入門コースが現在開講中である。昨年は日本で初めての試みとして夏期集中生命・医療倫理学入門コースを開講した。今年も昨年に引き続き夏期集中コースを開講する予定である(8月3日から6日の4日間。詳しくは6月にCBELのサイトに掲載する)。研究面では、『入門・医療倫理I』において予告されていた同書の応用編を準備中である。入門編と応用編を合わせることで初めて私たちは生命・医療倫理学の全体像を提示することができるだろう。また海外研究拠点との共同研究も行う。今年は米国ケースウェスタンリザーブ大学との共催により倫理コンサルテーションをテーマとした国際シンポジウムを開催する予定である(8月5日、詳しくは6月にCBELのサイトに掲載する)。

 わが国における臨床倫理と研究倫理の確立のためには、取り組むべき課題はまだまだ多い。これまで行ってきた人材養成とは違った視点から、倫理委員会や IRBの機能および体制を充実させることも必要だろう。例えば、厚生労働省の審議会等で検討されているセントラルIRBの可能性についても考えていくつもりである。こうした問題について、有意義な提案ができるような研究拠点となることをめざし、そのための基盤を固めることがまずは私たちのゴールである。これまでと変わらぬご支援とご協力をお願いしたい。

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