臓器移植法改正案(revision bill to the organ transplantation law)/児玉聡

 2005年8月8日、与党の有志議員によって臓器移植法改正案が衆院に提出されたが、 郵政民営化法案が参院本会議で否決されたことに伴い衆院が解散されたため、廃案と なった。現行の臓器移植法にはさまざまな問題点がつとに指摘されているが、今回の改正案で特に問題となったのは、(1)本人の明示的意思表示がない限り、法的脳死判定も臓器提供も行うことができない、(2)15歳未満は意思表示能力がないと見なされるため、臓器提供を行うことができない、の二点である。諸外国では、本人や家族の 意思に係らず脳死を一般的に人の死とし、また本人が拒否していなければ家族の同意で臓器提供を可能とする場合が多く、それに比べて法的脳死判定と臓器提供に関して本人の明示的意思表示を必要とする現行法は、要件が極めて厳しいものである。1997年に現行法が施行されて以来、国内では2005年9月までにわずか38件の脳死・臓器移 植しか行われていないが、これは法律が厳しすぎるからだとの批判がしばしばなされてきた。また、国内での臓器移植が不可能である小児は、募金を集めるなどして海外での移植を行わざるを得ないという状況が続いている。

 現行法のこれらの問題点を改正するために、自民党の河野太郎衆院議員が中心となり作成した改正案*では、(1)脳死を一般的な人の死と規定した上で、(2)15歳未満の未成年者も含め年齢に係らず、本人が生前に拒否していなければ遺族の同意で臓器提供を可能とした。これに対し、公明党の斉藤鉄夫衆院議員らが作成した対案**は、現行法の基本的枠組みは維持したままで、臓器提供可能年齢を現行の15歳以上から12歳以上に引き下げるというものであった。

 河野案は、現行の臓器移植法と比べると、臓器提供の条件を格段に緩めたもので、日本臓器移植ネットワークの試算では、この改正により脳死下での臓器提供数がこれまでの約4倍(年20件ほど)に増えるとされる。今後の国会で河野案が再提出されるものと見られるが、この改正案が成立する前に、(1)脳死を一般的に人の死とすることが許されるか、(2)(小児や精神障害者など同意能力のない者を含め)本人意思が明確でない場合に家族が代理決定することが許されるか、(3)虐待によって小児が脳死になったケースにどう対応するか、などの論点が十分に議論される必要があるだろう。 さらに、河野案も斉藤案も、親族への臓器の優先的提供を認めるとしているが、この優先提供の問題は、臓器移植法の理念であるドナー本人の意思の尊重と移植機会の公平性という対立をはらんでおり、今後も慎重な議論が必要だと思われる。

* 第 162回国会衆法38号: 臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(河野案)
**第 162回国会衆法39号: 臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(斉藤案)

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