生体肝移植ドナーの自発的意思とインフォームド・コンセント/藤田みさお

1989年に国内第1例目が施行されて以降、わが国における生体肝移植数は現在2600余例にのぼる[1] 脳死ドナーからの移植が長く認めらなかった経緯から、わが国の生体肝移植は先天性肝・胆道疾患や進行性の肝疾患末期に対する最後の治療法として、世界的にも例を見ない普及を遂げた[2],[3] しかし、昨年5月に臓器提供が原因でドナーが死亡する事態が生じ[4]、最近ではドナーの身体的、精神的、社会的な負担について、一般にも広く取り上げられるようになった。患者の救命を目的に、健康人にメスを入れる生体移植医療の大前提は、ドナーの安全確保と臓器提供への自発的意思である。特に、後者については、複数回のインフォームド・コンセント(以後IC)による確認手続きが必須と言われている。しかし、臨床においてこの自発的意思の確認が実は容易ではない。本稿では主に、筆者らの行った研究[5] について報告し、生体肝移植ドナーの自発的意思とICについて論じる。

生体肝移植ドナーの意思確認を行う最終面接に携わった倫理委員会 委員らにインタビュー調査を行ったところ、判断の難しい同意のあり方として次の3つ―「無条件の同意(unconditional consent)」、「やむを得ない同意(pressured consent)」、「動機のある同意(ulterior-motivated consent)」―が明らかになった。無条件の同意とは、移植を必要とする家族への強い愛情から、何がなんでも助けたいという一心で臓器提供に同意するあり方である。なかには手術を焦る気持ちが先立ち、医師からの説明をよく聞いていないドナーもいる。やむを得ない同意とは、明らかな強制はないが、移植を拒否することへの良心の呵責や周囲の視線といった、暗黙のプレッシャーが存在するあり方のことである。動機のある同意とは、純粋な愛情だけでないさまざまな動機が疑われるあり方のことである(例えば、家族との関係修復のために自己を犠牲にするとか、レシピエントが財産家であるなど)。ただし、判断能力のあるドナーが臓器提供に同意している以上、どこまでドナーの心に踏み込むべきなのか、あるいは踏み込んでもよいのか、確認する者には非常にデリケートな判断が要求される。

体ドナーに対するICにおいて、最も重要視されるのは、(1)意思決定に際して強制がなかったか、(2)移植の利益と危険性について充分理解しているか、の2点と言われる[6]。この2つが満たされて初めてドナーの意思は自発的であると見なすことができる。しかし、無条件の同意の場合、ドナーは条件(2)にあたる移植の利益や危険性については聞いていない、あるいは聞いていてもそれが意思決定の主たる判断材料になっていない可能性があった。やむを得ない同意の場合、明白な強制はないため、一見条件(1)は満たしているように見えるが、潜在するプレッシャーがどの程度ドナーの自発的意思に影響しているのかが不明である。動機のある同意の場合、条件(1)と(2)を満たした自発的意思さえ確認できれば、臓器提供の動機は問われなくてもよいのかという疑問が残る。

上記の研究結果は、生体肝移植おける自発的意思とはいったい何なのか、ICで本当に確認できるものなのかという問題を提起している。臓器提供しなければ大事な家族が死亡するという状況下で、ドナーが自律性を発揮するとはどういうことなのか。充分な説明を行い、判断能力のあるドナーが同意をすれば―その意思決定のあり方とは関係なく ―ICにおける医療者の役割は果たせたと考えてもよいのか。生体肝移植ドナーの意思確認にまつわる問題は、従来議論されてきた自発的意思やICの概念を再検討する必要性を示唆している。(2004年9月13日)


引用文献

[1]Japan Society for Transplantation. Available at http://www.bcasj.or.jp/jst/. Accessed September 6, 2004.

[2]Akabayashi A. Finally done–Japan’s decision on organ transplantation. Hastings Center Report 1997;27:47.

[3]Surman OS, Cosimi AB, Fukunishi I, Kawai T, Findley J, Kita Y, Makuuchi M. Some ethical and psychiatric aspects of right-lobe liver transplantation in the United States and Japan. Psychosomatics 2002;43:347-353.

[4]Akabayashi A, Slingsby BT, Fujita M. The first donor death after living-related liver transplantation in Japan. Transplantation 2004;77:634.

[5]Fujita M, Slingsby BT, Akabayashi A. Three patterns of voluntary consent in the case of adult-to-adult living related liver transplantation in Japan. Transplantation Proceedings 20 04;36:1425-8.

[6]Karliova M, Malango M, Valentin-Gamazo C, Reimer J, Treichel U, Franke GH, et al.
Living-related liver transplantation from the view of the donor: A 1-year follow-up survey. Transplantation 2002;73:1799-1804.

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